リサーチアシスタントとして異分野研究プロジェクトへの参画
大学院4年 循環器病態学 野崎俊光
■発表学会・場所: American Heart Association Scientific Sessions 2008 in New Orleans
■日時: November 8-12, 2008
Elevated Plasma Levels of Endothelial Microparticles Add Prognostic Value to Coronary Risk Factors in Patients at High Risk for Coronary Heart Disease
発表内容:
最近の研究で血管内皮機能障害は動脈硬化性疾患の有用な予後指標になることが証明され、血管内皮機能の重要性が認識されるようになった。現在、血管内皮機能評価は主に上腕動脈のflow mediated dilatationで評価されるが、その専門性や煩雑さなどの理由で一部の研究施設や専門病院で採用されるに留まっているのが現状だ。我々は血管内皮細胞障害マーカーとして血中に存在するVEカドヘリン陽性血管内皮細胞由来微小粒子(CD144-EMP)を提唱し、末梢血中に於けるCD144-EMPレベルが糖尿病患者と冠動脈疾患患者で有意に上昇しており、冠動脈血管内皮細胞機能障害を良く反映するマーカーである事を明らかにしてきた。今回の研究では、冠動脈ハイリスク患者387人において血漿CD144-EMP値を測定し標準的内服加療で平均36ヶ月間追跡調査を施行したところ、追跡期間中に計55の心血管イベントを認め、血漿CD144-EMP値は将来の心血管イベント発生の独立した予測因子であることが証明された。また、冠動脈疾患リスク評価のglobal indexであるFramingham risk factorsにCD144-EMPを組み込むことで予後予測モデルの精度が更に向上することも示され、血管内皮機能障害マーカーとしてCD144-EMPは患者の内皮機能を客観的・定量的に評価できる有用なマーカーであり、今後の臨床応用も期待できると考えている。

質疑応答:
Q. 心血管イベント発生に関与する因子について多変量解析をする際に、陳旧性心筋梗塞(OMI)の既往や左室駆出率(EF)などは重要なファクターと考えられるがこの研究ではそれらが含まれていない。それはなぜか?
A. この研究の目的はバイオマーカー(EMP、hsCRP, BNP, eGFR)の有用性を検討することが第一の目的である。EFはBNPと相関が高く共線性があるため多変量解析に両方を入れることはできず、よってバイオマーカーであるBNPを優先した。また、OMIについては検討する価値があると考える。
学会の雰囲気:
今年のAmerican Heart Association Scientific Sessions(AHA)はアメリカのNew Orleans / Morial Convention Centerで開催された。AHAは循環器領域において最も権威があり、且つ採択率が最も低い学会であるため、循環器領域の研究者が目標としている学会の一つである。そのため世界中の研究室から最新の演題がAHAに集まるため、自分の研究領域の最新情報を収集できる場でもある。ということで、会場はとにかく人人人。AHAは世界最大規模の参加者を誇る学会とは聞いたことがあるが、会場となるMorial Convention Centerの規模にも圧倒されるが、それ以上に会場の端から端のホールまで人で埋め尽くされることに驚くばかりである。また、口頭・ポスター発表問わず質疑応答が活発に行われる所にも研究者の興味の高さが伺える。会場には広大なエリアに製薬会社や各循環器領域関連会社の展示ブースが所狭しと並ぶホールがあるが、今年は100年に1度といわれるアメリカ発世界不況の真っ只中で開催されたこともあり、会場の装飾や展示ブースの内容が例年よりもシンプルに見えたのが印象的であった。
開催地の雰囲気:
ニューオリンズはこの時期は九州よりやや温かいくらいの気温であり、雨に降られたことは一回しかなく晴れた日にはミシシッピ川から吹く風が気持ちよかった。今まで行ったことがあるアメリカ本土の中で食事は一番おいしかった。高名なバーボン通りは自分の想像とは大きく違い、Jazzよりも主に今時のロック系のミュージックが大音量で流れており風情が感じられなかったのが残念。


大学院生学会発表旅費等支援と学会に関する感想:
大学院時代の研究成果が実って国際学会に採択され出席できるということは非常によい経験であり、勉強のモチベーションも上昇し、場合によっては留学のきっかけにもなりうるため非常にすばらしいことである。ただ、学会出席に対する支援がないことが多く国際学会にでることで出費がかさむという事実があるため、今回の大学院生学会発表旅費等支援はそれを解決してくれる非常に有用な支援と感じた。 今回AHAに参加したことで研究の貴重なヒントも得ることができたし、明らかに研究に対するモチベーションが上がった。このことを大切にしたいと思う。