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実施記録

学会での研究発表支援学会での研究発表支援


成果報告書

大学院3年 移植外科学 林田 信太郎

■発表学会・場所: American Transplant Congress 2010, San Diego, USA
■日時: May 1-5, 2010
■演題(タイトル): Clinical significance of FOXP3 positive Regulatory T cell monitoring in living donor liver transplantation



発表内容:
制御性T細胞とは免疫抑制機能に特化したT細胞で、様々な免疫担当細胞を負に制御することで、免疫寛容の確立、維持に必須の役割を担っている。さらに転写因子FOXP3が制御性T細胞に特異的に発現し、その発生・分化と抑制機能を制御するマスター遺伝子として働くことが知られている。肝移植においても、制御性T細胞が、肝移植後の拒絶や寛容の維持に大きく関与していると考えられ、今回我々は制御性T細胞のpopulationおよびFOXP3mRNAモニタリングし、その臨床的意義を明らかにすることを目的とした。flow cytometoryおよびリアルタイムPCRにて制御性T細胞のpopulationおよびFOXP3 mRNAを測定し、拒絶群と非拒絶群にわけ検討を行った。FOXP3 mRNAの発現量は術後2週から4週までの間、非拒絶群より拒絶群で低い傾向にあり、移植後長期経過症例では拒絶群で有意に低値であった。また、術後1ヶ月目の制御性T細胞のpopulationが非拒絶群に比べ、拒絶群で有意に低下していた。FOXP3陽性制御性T細胞のpopulationは肝移植後の免疫応答状態を反映していると考えられ、そのモニタリングは免疫抑制療法の調節の指標となる可能性が示唆された。



質疑応答:
腎移植を行っている施設(ニューヨーク)より腎移植でも同様の結果が得られ、生検におけるFoxp3陽性細胞の変化についても調べてはどうかとアドバイスを頂いた。また、マイアミ大学でもFoxp3に関連した研究を行っており、拒絶以外の因子、特に免疫抑制剤との関連について議論を行った。

学会の雰囲気、得られた成果:
American Transplant Congressは世界の移植学会のなかで最も大きくかつ権威のある学会の一つで、まさに世界中から数多くの発表があった。中でも我々が研究したFoxp3 遺伝子は移植界で注目されている遺伝子で、制御性T細胞のマスター遺伝子であることを発見した坂口先生の講演も含め、さまざまな研究報告を拝聴した。大きな方向性としては、制御性T細胞の導入による免疫寛容獲得に向けた取り組みと、細胞内シグナルやサイトカイン、他の免疫応答細胞との関連など、制御性T細胞の発生や作用機序に関する基礎的な研究が行われていることが分かった。特に印象に残った発表として、免疫寛容誘導に向けては、単にFoxp3陽性制御性T細胞を導入するのみではなく、導入するうえでの環境づくりも重要であるとの報告や、同じFoxp3陽性細胞の中でも、CD45RAあるいはCD45ROの発現によって、活性を持っているものと持っていないものがあるとの報告があり、今後われわれの研究においても有意義な研究成果を知ることができた。

質疑応答中 ポスター現場


開催地の雰囲気:
学会期間中は晴天に恵まれ雲ひとつない日々であったが、暑すぎることはなく、日陰に入れば少し肌寒さを感じる程度で快適に過ごすことができた。メキシコとの国境の町であり、スペイン領であった歴史からも、サンディエゴという地名はもとよりスペイン語に由来する通りや地名が数多く、スペイン語を耳にすることもしばしばあった。また、犯罪率の低さからもわかるように、基本的には非常に安全な町で、トラブルにも見舞われず本滞在を楽しむことができた。滞在したホテルの隣にはサンディエゴパドレスが本拠地とするペトコパーク球場があり、連日多くの観戦者であふれていた。大学時代野球部に在籍していたこともあり、メジャーリーグを生で観戦できたことは非常に貴重な経験であった。

質疑応答中 ポスター現場


大学院生学会発表旅費等支援と学会に関する感想:
今回初めて海外の学会に参加させて頂き、最先端の研究報告を聞くことができた。特に、新規薬剤の臨床研究については、日本と比べ大きな開きがあることを感じた。また日本の学会に比べ質疑応答が非常に活発であり、自分の意見をしっかり持つこと、最低限の英語力はこれから身につけなければいけないことだと感じた。 海外の学会参加にあたってはやはり金銭的な心配がつきものであるが、大学院生学会発表旅費等支援により多くの学生にその道が開かれることは非常に有意義であり、本支援は世界に目を向ける機会を与えてくれるものと感じた。