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実施記録

学会での研究発表支援学会での研究発表支援


成果報告書

大学院4年 循環器病態学 大庭 圭介

■発表学会・場所: McCormick Place Convention Center, Illinois, Chicago, USA
■日時: November 13-17, 2010
■演題(タイトル):Diastolic to Systolic Velocity Ratio of Coronary Artery Flow at Basal Condition Indicates Coronary Microvessel Spasm in Normal Coronary Angiography

発表の概要:
冠攣縮性狭心症などの器質的狭窄を伴わない狭心症は、非閉塞性の冠動脈疾患として、心血管イベントのハイリスクであることが知られているが、冠動脈微小血管スパスム(Coronary Microvessel Spasm: CMVS)の診断や治療について確立されたものはないため検討を行い、発表した。狭心症が疑われたが冠動脈造影で有意狭窄病変を認めなかった連続318例において、冠動脈内アセチルコリン負荷試験と同時に、冠動脈内フローワイヤーによる冠動脈の血流速度測定と、冠動脈-冠静脈における乳酸測定を行った結果、40例において造影上の冠動脈攣縮を認めないにもかかわらず、胸痛の再現とともに、血流量が低下し、乳酸産生や胸部症状・心電図のST変化といった、心筋虚血所見を認め、CMVSと考えられた。同方法により、従来は十分診断されていなかった狭心症が少なからず(女性では約2割)存在することが示された。またCa拮抗薬の内服治療を行ったところ、約5年のフォローで1例も心血管イベントを認めなかった。
 器質的狭窄を認めなかった318例においてCMVSが存在する関連因子を解析したところ、女性に多いこと、年齢が若いこと、Body Mass Indexが低いこと、加えて、負荷検査前の拡張期収縮期血流速度比(Diastolic to Systolic Velocity Ratio)が低いことが、それぞれ独立した関連因子であることが判明した。DSVRは冠動脈に有意狭窄がある場合は低値をとることが示されているが、今回CMVSでも低値であることが示された。これら関連因子があれば、検査の前に疾病の存在を疑うことが出来るだけでなく、検査前に疾病の有無の予測が一定の率で可能となるため、臨床的に極めて有用と考えられ、発表を行った。


質疑応答:
 CMVSは心臓シンドロームX(Cardiac syndrome X)とは別の病態か、との疑問に対して、心臓シンドロームXは労作時の胸痛や運動負荷時のST低下にも関わらず、冠動脈造影が正常な集団であり、ペーシング負荷で誘発が可能である。今回のCMVSでは労作時よりも安静時の胸部症状が多いことや、運動負荷時のST変化は低頻度であり、アセチルコリン負荷により誘発されることからも、異なった病態と考える必要があることを説明した。

学会の雰囲気:
 American Heart Association(AHA)は心血管疾患の研究や心肺蘇生に関する権威であり、その年次集会は世界最大規模の学会である。今年は、世界最大とされるChicagoのMcCormick Place Convention Centerで開催された。演題応募は1万以上、採択率は30%前後、近年は発表分野によって7つのcoreに分かれており、熊本大学からは20以上の演題が発表された。
 昨年は不況の影響があったそうだが、今年は人がとても多く、どの発表会場でも活発な議論が交わされていた。循環器科医また大学院生として、大いに啓発されるものであった。

開催地の雰囲気:
 シカゴ市はアメリカ合衆国のイリノイ州にあり、ミシガン湖の南西岸に位置する、人口290万の大都市である。鉄道、航空、海運の拠点とされ、宿泊したホテルはダウンタウンに位置したが、高層ビルが立ち並ぶ中にあった。
 学会場とホテルの間には、美術館や博物館があった。会場から帰る途中にある、ミレニアム・パークの巨大モニュメントの前では記念写真を撮った。次回があれは、今度は家族と観光で訪れたい。



大学院生学会発表旅費支援と学会に関する感想:
 今回大学院生学会発表旅費等支援により、金銭的な心配をすることなく、同学会に出席することができた。学生である自分にとって、これは非常にありがたく、支援を受けることが出来た現在の環境に感謝をするとともに、学んだことを今後の研究・発表に生かしたいと思う。