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実施記録

学会での研究発表支援リサーチアシスタントとして異分野研究プロジェクトへの参画


学会報告

大学院2年 多能性幹細胞分野 高濱和弘

■発表学会・場所: 50Th Annual Drosophila Research Conference in Chicago
■日時: March 4-8, 2009
演題(タイトル):
High calorie diet-induced reduction of sleep and lifespan in dopamine transporter mutant, fumin




私は、3月4日から8日までの5日間、シカゴで開催された50th Annual Drosophila Research Conferenceに参加しました。

発表内容:
学会で発表した内容について紹介します。私は、睡眠の機能ついて興味をもっており、ショウジョウバエを用いた睡眠と寿命に関する実験結果を発表させていただきました。睡眠は、多くの生物種に保存されている生理学的機能です。これまでの研究により、睡眠は、記憶・学習、エネルギー消費の節約や生存に関与すると考えられています。近年、優れたモデル生物であるショウジョウバエにおいても睡眠が観察されたことで、睡眠研究は大きく発展してきています。特に、ショウジョウバエは約60日と比較的短い寿命であることから、睡眠と寿命との関連について研究するには最適のモデル生物であります。これまでに、遺伝子変異により眠らないショウジョウバエ変異体がいくつか発見されており、それら変異体の寿命は野生型の寿命に比べて短いことが報告されています。唯一、fumin変異体(fmn)は、神経伝達物質であるドーパミンのトランスポーター変異によって野生型の3分の1の量しか眠らないにもかかわらず、野生型とほぼ同じ長さの寿命を示します。私たちの研究室では、様々な飼育条件下でfmnの寿命を調べました。そして、高栄養飼育条件下ではfmnが短命になることを見いだしました。高栄養な餌を与えたfmnは、睡眠量もさらに低下して通常の餌を与えたときの3分の1の量しか眠らなくなっていました。この高栄養な餌条件による睡眠量の減少と寿命の短縮の機構を解明するために、fmnの頭部での遺伝子発現パターンの網羅的解析を行いました。通常条件下と高栄養条件下で比較して発現量に1.5倍以上差がある遺伝子を抽出してきたところ、高い栄養条件下で発現レベルが上昇または減少している遺伝子がそれぞれ、124個と132個みつかりました。変動している遺伝子の中には、未知の遺伝子だけでなく寿命や老化に関する報告が既にある遺伝子や睡眠に関係する遺伝子がありました。今回の結果により、高栄養条件ではfmnは老化が進んだ状態になっていることが考えられます。今後は、今回抽出した遺伝子の機能について、寿命および睡眠との関連を検討して行く予定です。

ディスカッションの内容:
質問 カロリー制限をした過去のマイクロアレイのデータと比較するとどうか?

返答 カロリー制限や加齢したショウジョウバエでは、代謝、酸化ストレス応答や免疫系に関連する遺伝子の発現が変動しているという報告がある。今回の実験で変動していた遺伝子の一部はそれらの報告と共通する遺伝子であったが、機能がわかっていない未知の遺伝子も多く変動していた。

学会の概要:
この学会では、基本的には朝8時30分から夕方6時30分までシンポジウムやワークショップなどが企画されており、その間には30分間のコーヒーブレイクと1時間程度の昼食の時間がとってありました。学会はとてもフランクな雰囲気で進行していきました。発表者でさえもスーツスタイルの人は稀で、参加者のほとんどがジーパンとTシャツにスニーカーといったラフな格好でした。最終日を除いた学会期間中は、夕食後の午後8時から午後11時までがポスターセッションの時間でした。一つの大きな会場に800題を超すポスターが掲示されていて、予定の時間を超えて深夜まで活発な議論が展開されていました。今年の学会は50周年記念大会で、学会初日の夜に特別プログラムが企画されており、歴代の著名な研究者の講演などがありました。中でもMel Green博士の講演は、とてもユーモアに富んだもので楽しめました。


開催地について:
開催地となったシカゴは、ニューヨーク、ロサンゼルスに次ぐ、アメリカ第3の都市です。ダウンタウンには新旧の超高層ビル群がひしめきあい、街を歩くと奇抜なデザインのオブジェが目につきます。建築の街として有名で、日本の帝国ホテルを設計したフランク・ロイド・ライト縁の地でもあるそうです。ダウンタウンの中心部にはCTA (chicago transit authority) と呼ばれる高架電車が山手線のように環状に走っていて交通網も充実しています。CTAは24時間稼働していて、非常に便利でした。シカゴにはオヘアとミッドウェイという国際空港が2つあるのですが、オヘア空港からはCTAのブルーラインで、またミッドウェイ空港からはオレンジラインでダウンタウンへ移動することができます。ダウンタウンにはCTAが運営するバスの路線も充実していて、それはダウンタウンから会場へのアクセスに非常に便利でした。ビジターカードを1枚購入すれば、高架電車もバスも両方乗れるので、海外不慣れな自分にとってはとてもわかりやすく、安心して利用できました。高架電車で環状に囲まれた地区はループと呼ばれており、その北側には銀座のような豪華な通りの繁華街があり、東側はグラントパークという広大な公園になっています。そのグラントパークから北にしばらく歩いたところにあるホテルで学会が開催されました。初日はバスを利用せず、学会会場まで1時間ほど歩いたのですが、どこを見ても絵になる風景でした。


大学院生学会発表旅費等支援と学会に関する感想:
現在では、国内にいても世界でどんな研究が行われているかほとんど知ることができます。しかし学会に参加することは、第一線で活躍する活気あふれる研究者と直接話をすることで研究へのモチベーションが向上し、自分の研究内容について改めて考えるよい機会となることから、非常に大事なことだと思います。国際学会への参加には国内の学会に比べて大きな費用がかかります。数多くの学生が経済的な問題を乗り越えて学会発表できる機会を増やすためにも、今後この大学院生学会発表旅費等支援制度がより充実したものになり、複雑な事務手続きもなく多くの学生に活用される制度になることを期待しています。私は、この制度のおかげで、経済的な問題に時間をとられることなく学会への準備に専念することができましたし、何よりこの学会参加を通じて寿命研究で有名なLinda Partridge博士や睡眠研究で有名なGiulioTononi博士のラボの研究者たちと発表内容についてディスカッションするという、忘れられない貴重な体験ができました。最後になりましたが、このようなすばらしい機会を与えていただいた粂和彦先生、ならびに粂昭苑先生に心より感謝いたします。








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