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実施記録

学会での研究発表支援学会での研究発表支援


成果報告書

大学院4年 循環器病態学 野﨑 俊光

■発表学会・場所: XV International Symposium on Atherosclerosis 2009 in Boston, MA
■日時: June 14-18, 2009
■演題(タイトル): Telmisartan Protects from Endothelial Cell Damage by Improving Mitochondrial Function Through Peroxisome Proliferator-Activated Receptor-γ Independent Pathways

発表内容:
今回、我々の研究においてテルミサルタンの前処置によりヒト冠動脈内皮細胞(HCAEC)は酸化障害(H2O2)への耐性を獲得し、angiogenesisも促進することを証明した。テルミサルタンの作用によりHCAECのミトコンドリアの数と機能が亢進していることが分かり、そのメカニズムはPPARγから独立した経路により調停されていると考えられた。また、eNOS, VEGFA, mitochondrial transcription factor A, Sirt1のmRNAも有意に増強させていたことから、テルミサルタンが血管内皮細胞に保護的に働く可能性が考えられる。これらの結果は、臨床試験でのテルミサルタンの効果をサポートする結果であり、更なる解析が必要と考えられる。

質疑応答:
Q. テルミサルタンのミトコンドリア機能亢進作用が血管平滑筋細胞には認めず内皮細胞に特異的な理由はなぜか。動脈硬化形成には平滑筋細胞も重要な役割を担っているため興味がある
A. 血管平滑筋細胞には認めずHCAECに認める作用であり、内皮細胞に特異的で内皮機能を亢進させることが証明されているeNOSに着目している。eNOSをテルミサルタンが上方制御することによりこの現象が認められていると考えており、現在詰めている段階である。
Q. アンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の中でエプロサルタンのみミトコンドリア機能を低下させているが、その理由は。
A. ARBはPPARγアゴニスト作用を大なり小なり有しているが、テルミサルタンがその中では最もアゴニスト作用が強く、エプロサルタンのみがアゴニスト作用を有さない薬剤である。ミトコンドリア機能亢進のメカニズムはPPARγから独立した経路により調停されていると考えているが、一部はPPARγも関与している可能性は否定できない。
Q. テルミサルタンの臨床試験であるOn Target試験において、PPARγ作用を有するテルミサルタンはDMの新規発症を抑制することが期待されたが結果では抑制できなかった。その理由はどう考えているのか。
A. その理由は今のところはっきりしないのが現状である。

学会の雰囲気:
International Symposium on Atherosclerosis(ISA)は3年に1回開催される動脈硬化にフォーカスを絞った国際学会であり、今年のISAはアメリカのボストンで開催された。世界の動向の把握や自分の研究との方向性の確認のために有用な学会であったが、残念なことには新型インフルエンザがメキシコとアメリカで大流行した直後の時期であったため演題取下げが多かった(特にポスターセッション)。しかしながら、動脈硬化をメインターゲットにした学会であるだけに質問に訪れる研究者はアメリカ心臓病学会(AHA)よりも多いくらいで、他の研究者から見て自分の研究に足りないものを確認できた場でもあった。今回のISAは大学院になって4回目の国際学会(いづれもアメリカ)となり、学会参加に慣れてきたこともあるのか英語への対応力が向上したことが実感できた。国際学会での発表を今後ももっと活発に行っていきたいと考えている。今までは今後の進路としての留学という選択肢は漠然とした弱いものであったが、ISAに参加して留学への希望が強くなったことが一番の収穫であった。

Brigham and Women's Hospital施設見学:
ボストンはハーバート大学やマサチューセッツ工科大学を有する学園都市でもある。 我々はハーバード大学の関連病院であるBrigham and Women's Hospitalの施設見学とリサーチミーティング参加も体験することができた。 午前中は抄読会に参加したが、印象は日本で我々が行っている抄読会と大差ないと感じた。 英語のスピードには付いていけなかったのでディスカッションの内容の詳細が把握できたわけではないが、そう思えたことは貴重な体験だった。 午後はリサーチミーティングに参加した。5名の若手研究者のプレゼンテーションが行われたが、ここではハイレベルかつ先進性のある(研究費もかかる)研究が紹介され、世界のトップレベルであることを痛感した。 最後に、昨年7月に完成したCardiovascular divisionの臨床病棟を見学できた。 循環器領域では最も著名な研究者の一人であるDr. Peter Libby(Brigham and Women's Hospital Cardiovascular divisionの主任教授)に縁があり本人直々に案内して頂いた。 患者と家族に最大限配慮した病室の作り(家族待機スペースの充実、CCU並の広さと設備を有する一般病棟)には驚き、広くて利便性を追求し集約された検査設備には圧倒された。 学会と並び楽しみにしていたイベントであったため、印象的で満足できる経験ができた。

開催地の雰囲気:
ボストンといえばMLBのBoston Red Soxがすぐに思い浮かべられる。 松坂投手らの活躍で日本でもかなり有名になっていたため、あらかじめ学会最終日の夜のチケットを手配して楽しみにしていた。 ボストンの天気はどんより曇りのことが多く、時々晴れ・雨といった感じである。 不運なことに観戦した日は曇り後雨で試合開始はできたものの6回表1-0のRed Sox負けスコアで試合が中断となった。 MLBはそれからが長い。降り続く雨の中ファンはなかなか帰らないのである。 MLBもファンの気持ちを汲んでか試合中止の判断はそう簡単には下さない。 待ち時間の間、ボストンに医学研究所を持っておられる日本人の先生とその教室に留学中の日本人の方も一緒に観戦していたため、アメリカでの生活などいろいろと伺うことができた。 2時間以上待った挙句雨が止む気配がないため我々はホテルに戻ったが、10:30PMを過ぎてもMLBは中止にはなる気配がなかった。 また、ボストンではBoston美術館も有名だ。 アメリカ屈指の収蔵品数を誇り、日本美術も多く有している。 特に浮世絵などは有名で葛飾北斎などの絵を楽しみにしていたが、ローテーションの関係で展示品から外されていたのは残念だった。 館内で一番惹きつけられた作品はモネの日本娘で、着物の迫力は一見の価値あり。 食事ではロブスターとクラムチャウダーが絶品であった。 冬は本当に寒いボストンだそうだが、日本人が住むには恵まれた環境ではないかと思えた。


大学院生学会発表旅費等支援と学会に関する感想:
今回は4回目の国際学会での発表であったが、今までとは大きく異なる気持ちで帰ってくることができた。今まで以上にモチベーションが上がっているのを実感している。こういう気持ちの変化がどの時点で、どの学会に参加して、どこの地域・施設を見て生じるのかは本当に分からないものである。昨年のAHA参加の支援に引き続き今回もISA参加を支援して頂き、金銭面で安心して国際学会に参加できたことは非常にありがたく感じでいる。残りの大学院生生活で最大限の成果を残せるように頑張りたい。